事典にない大阪弁-絶滅危惧種の大阪ことば / 旭堂南陵
住むのも働くのも中心部のビジネス街だったからか、大阪という街や人にあまり悪い印象は無い。本町から船場あたりが生活の中心だったので歴史や長い年月の積み重ねを感じられて、東京23区ではありながらベッドタウンに住む自分にとっては珍しい経験や貴重な体験ができたと思う。
そこでこの本。言葉、特に消え行く日常語に残る大阪やその暮らし、文化を記している。著者の母親が平野町の出身ということで、船場に関する記述も多い。
「おあがりやす」の項には
ご膳おあがりやす。おつい(お汁)おかえやす。昼の炊きたてのご飯はおかわり自由。
と書かかれている。
確かに自分がいた北浜近辺では昼時の定食のご飯は大盛り無料どころかお代わりも無料な店が大半だった。どの店もデフォルトがそうなので敢えて「無料」などと書いていない。でも通い慣れた風情のお客さん(サラリーマン)は「軽めにお代わり」「大盛りで」とナチュラルに頼んでいる。麺類やアタマも大盛りになる丼物などは大盛り料金設定があるのだが、定食につくご飯はほぼどこでも融通が効いた。
来歴も説明も無いけど、そんなこともあって、この「おあがりやす」の項は妙に納得した。
刑務所のリタ・ヘイワース / スティーヴン・キング
映画をあまり見ないので「ショーシャンクの空に」は未見で、名作だということぐらいしか知らなかった。これが原作だということで読んでみた。
一人称で進んでいく話はいろいろな箇所で琴線に触れてくる。乾いた語り口と話の構成の力の抜け具合で一気に読めてしまった。
これくらい夢中にさせる筆力が無ければ恐がらせることなんかできないよな、と納得。
その街の今は / 柴崎友香
最初に知ったのはテレビドラマ版。2年前の今頃、日曜日のどんよりした午後に大阪の自室で偶然、途中だけ見た。淡々としたストーリーと静かな音響、屋外ロケで映る大阪の街並にしばらく見とれてしまい、我に返って買物に出かけた記憶がある。
その時のもの静かなドラマの雰囲気がずっと記憶に残っていて検索してみたところ原作の存在を知り、そして舞台が船場近辺ということでかなり興味を持っていた。先日機会があって読むことができた。
ストーリーはテレビドラマに輪をかけたように静かに進み、日常のちょっとしたやりとりや風景が書かれていく。出てくる地名がいちいちツボで、自分が見ていた街の景色を思い浮かべながらそれを文章中の丁寧な描写で確認していくという得がたい経験をすることができた。小説自体も自分が普段読まないテイストのもので不思議な読後感だった。
残念なのは俺の時はソニータワーがZARAに変わってしまっていたことかな。