フルタイムライフ / 柴崎友香

その街の今は、以来の柴崎友香
会社に勤めて毎日を暮らす、ってこういうことだよな、ということを改めて実感させてくれる。主人公の目線というか態度に好感が持てて読後感が爽やかだ。
刺激の強い描写や話の展開は無いけれど続きが気になってどんどん読み進めてしまう。事物の描写も心象の描写も丁寧で光景が目に浮かんでくる。船場から難波あたりの地名がよく出てくるから、というのもあるかもしれない。
おっちゃんサラリーマンの言葉遣いを商業用大阪弁と表現したのは上手い。
読後感は軽いがその裏には緻密な構成がある。

事典にない大阪弁-絶滅危惧種の大阪ことば / 旭堂南陵

住むのも働くのも中心部のビジネス街だったからか、大阪という街や人にあまり悪い印象は無い。本町から船場あたりが生活の中心だったので歴史や長い年月の積み重ねを感じられて、東京23区ではありながらベッドタウンに住む自分にとっては珍しい経験や貴重な体験ができたと思う。
そこでこの本。言葉、特に消え行く日常語に残る大阪やその暮らし、文化を記している。著者の母親が平野町の出身ということで、船場に関する記述も多い。
「おあがりやす」の項には
ご膳おあがりやす。おつい(お汁)おかえやす。昼の炊きたてのご飯はおかわり自由。
と書かかれている。

確かに自分がいた北浜近辺では昼時の定食のご飯は大盛り無料どころかお代わりも無料な店が大半だった。どの店もデフォルトがそうなので敢えて「無料」などと書いていない。でも通い慣れた風情のお客さん(サラリーマン)は「軽めにお代わり」「大盛りで」とナチュラルに頼んでいる。麺類やアタマも大盛りになる丼物などは大盛り料金設定があるのだが、定食につくご飯はほぼどこでも融通が効いた。
来歴も説明も無いけど、そんなこともあって、この「おあがりやす」の項は妙に納得した。

刑務所のリタ・ヘイワース / スティーヴン・キング

映画をあまり見ないので「ショーシャンクの空に」は未見で、名作だということぐらいしか知らなかった。これが原作だということで読んでみた。
一人称で進んでいく話はいろいろな箇所で琴線に触れてくる。乾いた語り口と話の構成の力の抜け具合で一気に読めてしまった。
これくらい夢中にさせる筆力が無ければ恐がらせることなんかできないよな、と納得。

肉饅と焼き鳥

大山Walkerを読んでいたら神楽坂の五十番の工場が大山にあって製造直販もやっていることを知る。早速出かけて調達し、その足で仲宿の鳥新の焼き鳥も調達。12本で1,150円。
 
大変美味でした。満足。

製造直販の工場をめぐるのは楽しいかも。今度は上板橋東武ホテルのパンかな。<2014.4.22 追記>
通販の企業概要に"(株)シンコーの運営する五十番本店とは別の会社になります。"という記述があるので、神楽坂の店で食べるのとは別物のよう。

アイドルのいる暮らし / 岡田康宏

竹中夏海に続くポット出版のアイドル関連本。
タイトルのとおり、生活にアイドル(特に現場)の比率が高い人たちのインタビュー集。対象との距離感の取り方に関する自分なりの考えがあり、それに従って生活をするというのはどういうことなのか、という点についての記述が非常に興味深い内容で面白かった。
あと、インタビューイに部外者に対する捩れた自己顕示欲を感じさせる人がいなかったので、濃い人ばかりの話が続くけれど読後感が良かった。

後半戦

12時間稼動を終えて帰ってきて今週もあと1日。
今日は昼間に少し出かけた。風は冷たく、日陰は寒かった。電車代をけちって歩いたから余計そう感じたのかもしれない。
ただ明日から、ハッピーブライダル-残ったみんなは蟹工船-という状況が待っているので正直気が重い。
やたらポジティブなモヤさま伊藤Pの本を読んで元気のお裾分けに預かろう、と思ったのだが眩しすぎて自分の身体を透過していってしまった気がする。

その街の今は / 柴崎友香

最初に知ったのはテレビドラマ版。2年前の今頃、日曜日のどんよりした午後に大阪の自室で偶然、途中だけ見た。淡々としたストーリーと静かな音響、屋外ロケで映る大阪の街並にしばらく見とれてしまい、我に返って買物に出かけた記憶がある。
その時のもの静かなドラマの雰囲気がずっと記憶に残っていて検索してみたところ原作の存在を知り、そして舞台が船場近辺ということでかなり興味を持っていた。先日機会があって読むことができた。
ストーリーはテレビドラマに輪をかけたように静かに進み、日常のちょっとしたやりとりや風景が書かれていく。出てくる地名がいちいちツボで、自分が見ていた街の景色を思い浮かべながらそれを文章中の丁寧な描写で確認していくという得がたい経験をすることができた。小説自体も自分が普段読まないテイストのもので不思議な読後感だった。
残念なのは俺の時はソニータワーがZARAに変わってしまっていたことかな。